概日リズムは概日時計の自律発振に基づく内因振動であり、昼夜の環境変化に対する普遍的な適応現象である。多様なモデル生物で概日時計の部品である「時計蛋白質」をコードする「時計遺伝子」が多く分離され、自律発振の仕組みが調べられてきた。植物では、Myb蛋白質をコードするCCA1/LHY、二成分制御系のレシーバードメイン用配列を持っPRR遺伝子群、GARPドメイン蛋白質をコードするPCL1などが主要時計遺伝子として分離され、それらの機能的総合としての概日時計機構が調べられつつある。しかし、それらはモデル種シロイヌナズナを中心とする被子植物のみの研究成果であり、より系統的基部に位置する多様な植物種についての知見はほとんど皆無といってよく、したがって植物全体における時計の多様性・進化・起源は全くの謎であった。本研究においては、ヒメツリガネゴケ(コケ植物)を用いて基部植物の概日時計機構を探り、その結果を被子植物や緑藻の研究成果と体系的に比較し、「植物時計」の進化と起源を明らかにする。平成21年度においては、シロイヌナズナの時計蛋白質CCA1/LHY、PRRsなどのコケ・ホモログ群の解析を主に行った。その結果、逆遺伝学解析により、CCA1/LHYのホモログPpCCA1a/PpCCA1bがCCA1/LHYとほぼ同様の時計機能を持つことを明らかにした。その一方で、PRRsのホモログPpCRRsは、in vitroでヒスチジンキナーゼによるリン酸転移を受けることなどから、被子植物PRRとは対照的に典型的なレスポンスレギュレーターとして機能することを明らかにした。さらにPpCRRsは系統的にはPRR3/7サブファミリーに近く、またPpCCA1a/PpCCA1bにより抑制制御されていることから、コケとシロイヌナズナの時計機構において共通な「コア・ループ」の存在を示すことができた。今後このループを拠り所として、植物時計の共通機構とともに多様化/進化において重要な制御プロセスが明らかになるものと期待できる。
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