本年度は、RdDM経路やヒストン修飾の段階で機能するさまざまな因子遺伝子とMOM1との多重変異体の解析と、MOM1に見られるクロモドメインの機能解析を行った。 1、mom1変異体とkyp変異体(ヒストンH3K9メチル基転移酵素遺伝子の変異体)およびago4変異体(RdDM経路で機能するARGONAUTEタンパク質遺伝子の変異体)を交配し、mom1 kypおよびmom1 ago4二重変異体を得た。現在、内在性不活性化領域を指標として、これらの変異体におけるヒストン修飾状態の解析をChIPにより進めている。 2、イネMOM1にはシロイヌナズナMOM1には見られないクロモドメインが存在する。MOM1によるサイレンシング機構におけるクロモドメインの必要性を検証するために、イネを用いた解析を行った。イネにはMOM1遺伝子が2コピー存在するが、これまでの解析から、そのうちの片方(MOM1b)が内在性トランスポゾン様配列(Pong6)のサイレンシングに必要であることが明らかになっている。2kbのプロモータ領域を含む野生型MOMlb遺伝子およびクロモドメ・インがメチル化リシンに結合する機能に必須の役割を果たすアミノ酸残基に変異を導入した変異型MOM1b遺伝子にtriple HAタグを結合してmom1b遺伝子変異体に導入し、Pong6のRNA蓄積量を指標とした相補実験を行ったところ、野生型、変異型いずれのMOM1b遺伝子の導入個体においてPog86の発現抑制が見られた。このことは、イネMOM1に存在するクロモドメインがサイレンシング機能に必要ではないことを示唆する。他の植物種のMOM1タンパク質が持つPHD fingerなどのクロマチン関連モチーフもシロイヌナズナMOM1には存在しないことと合わせて、MOM1がCHD3タンパク質から進化してきた過程で、クロモドメインやPHD fingerなどのドメインを必要としない特殊なサイレンシング機構を獲得したことが考えられる。
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