ファシリテーション(他種定着促進作用)は、遷移初期に群集多様性を高める主要な要因として注目されるが、時に、生物学的侵入を促進することとなり、ファシリテーションが生態系劣化を誘引することもあり、遷移は加速されるが潜在的な生態系への回復は遅延することがある。そこで、ファシリテーションと生物学的侵入との関係を明らかとするために、ファシリテーション作用が顕著である谷地坊主(以降tussock)を対象に、操作実験を行った。Tussock種はホロムイスゲ・ワタスゲ・ヒメスゲを選んだ。各Tussockが、どの植物群を特にファシリテーションするのかを検証しつつある。操作実験区設置前に、tussockおよび他種個体のマッピングを行い、空間構造を把握した。実験区は、1)平坦部[tussockの発達していない平坦部]、2)Tussock区[無操作対照区]、3)Tussockリター除去区、である。それぞれの区に対し、播種(単播区×2)・混播区(×1)と非播種区(×1)を設置し、3(tussock処理)×4(播種処理)=12処理区、となるよう実験区を設置し、播種および移植実験を施し追跡調査を行った。これまでに得た主な成果は以下の通り。 乾燥地(渡島駒ケ岳)では、tussockによる被陰効果と種子トラップ効果により、エゾヌカボやヒメノガリヤスの実生発生および生存率が裸地に比べ高い。ただし、生物学的侵入種のTussock利用は認められなかった。湿地(サロベツ湿原)では、被陰効果・トラップ効果が認められ、さらに、土壌移動低減作用とtussock基部から頂部に向かう高い水分勾配の成立が示された。特に、ファシリテーションの強さは、土壌水分を介した環境変化により決定されることが示唆され、高い水分勾配が、様々な種の侵入・発芽を促進していた。これらの効果は、リター除去を行っても被陰以外の効果はほとんど変化せず、リターよりもtusscokの形状そのものがファシリテーションに関与していることが示された。発芽率は、生物学的侵入種の方が在来種よりも高く、また発芽域も広いことも侵入の一因であった。 実生および環境について、2011年度には追跡調査を主に行いデータの補完を行ったうえで、各生物群について生活史全体を通してのファシリテーション効果を定量化し、生物学的侵入との関係を明らかとする予定である。
|