ササは林床の重要な植生要素であり、下層植生の多様性や樹木更新に大きな影響を与えるとともに、物質生産にも大きく寄与している。阿武隈高地の南端に位置する小川群落保護林において、アズマザサ、ミヤコザサ、スズタケの3種のササについて、ササの分布と微地形と微環境(林冠の開空率、土壌の体積含水率)との関係及び最大光合成能力の季節変化を調査した。(1)3種のササの分布:3種のササの生育域を含むような調査区(630m×420m)を設置し、調査区内のササの分布と稈密度、稈長を調査した。3種のササの分布は多変量回帰木(MRT)を用いて、微地形との関係を解析した。MRTの結果、アズマザサはスズタケの分布域を除きほぼ調査地全体に分布した。アズマザサは3種の中で最も土壌体積含水率と開空率の変化に対して稈長と稈密度の変化が大きく、この可塑性の高さが分布を広げた要因と考えられた。ミヤコザサとスズタケは比高(最近接の沢との標高差)約30mを境として分布が分かれた。比高は土壌体積含水率と有意な負の相関があり、ミヤコザサとスズタケの分布を分けている要因は土壌水分であると考えられた。(2)3種の最大光合成速度(Amax):アズマザサとミヤコザサの開放地では、繁葉期にそれぞれ15.6、12.1μmolCO_2・m^<-2>・s^<-1>と最も大きな値を示した。ミヤコザサは季節を通して10μmolCO_2・m^<-2>・s^<-1>以上の値を記録したが、アズマザサは展葉期、落葉期はそれぞれ7.34、8.63μmolCO_2・m^<-2>・s^<-1>と小さかった。林床では2種は季節を通して似た傾向を示したが、ミヤコザサの方が同程度の気孔コンダクタンスで高い光合成速度を示した。一方、林床のスズタケは、季節を通して光合成速度が展葉期(2.56μmolCO_2・m^<-2>・s^<-1>)から落葉期(11.1μmolCO_2・m^<-2>・s^<-1>)まで大きく増加した。
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