冷温帯の里山に生息するノシメトンボは、水田で羽化した後、周囲のスギのギャップへ移動し、生涯を過ごしている。水田へは、産卵のために短時間飛来するに過ぎない。ギャップでは、繁殖行動を示さず、休息と採餌行動を行なっている。採餌は待ち伏せ型で、ハエやハチなどの小昆虫を餌としている。繁殖期に入ったノシメトンボの採餌行動を、8月下旬から9月初めにかけて観察したところ、地上から約2mの高さで静止し、正午に活動のピークをもつ一山型の採餌行動を示していた。ピーク時の採餌飛翔は、雌で約36回/時間、雄は約24回/時間であった。採餌飛翔の成功率は、雌で34%、雄で33%と、雌雄で有意な差はなかった。その結果、1日当たりの採餌成功回数は、雌で102回、雄で64回となった。林内ギャップにおける餌となる小昆虫の平均乾燥重量は0.17mg/個体だったので、ノシメトンボの1日当たりの摂食量は雌で17mg、雄で10mgと計算でき、これらの値は室内実験の結果と一致しだ。一方、産卵のために連結して水田へ飛来したノシメトンボのペア数や飛翔産卵高度を、終日、15分間隔のライントランセクト調査によって調べ、10:00~13:00が産卵活性のピークであることを明らかにした。ペアは稲の穂先の直上で卵を放出しており、温度や湿度などの環境要因の垂直分布から、水蒸気圧による空気密度の差が、偏光による水面を擬し、産卵行動が促されていると考えられた。なお、ミトコンドリアDNAの予備的解析により、雄よりも雌の定住性の強いことが示唆された。
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