研究概要 |
H21年度は,屋久島の,極相照葉樹林から路傍草地までの様々な管理下にある植生での食痕調査により,植物の生態特性として木本と草本を合わせて58種の植物の,シカによる摂食での嗜好性を定量化し,これをもとに35地点の被食圧を定量化した. これらの種の中ではルリミノキ類やツルラン類,キノボリシダ,シロヤマシダなどで嗜好性が高く,今回観察された最も低レベルの被食圧ではこれらの種が地域絶滅する. これより被食圧が高い地域では森林の骨格を構成するヤブニッケイやスダジイ,イヌガシなどのブナ科やクスノキ科の樹木種やアオノクマタケラン,ウラジロなどの下層植生優占種が食害を受けるが,ツバキやサザンカ,ハイノキ科,ヤマモモなどによる森林が成立する可能性がある. 今回の調査で最も嗜好性が低い植物はハスノハカズラやイシカグマ,クワズイモ,樹木ではアブラギリやヤマモモ,クロキなどであった.被食圧の高い地域では,ヤマモモが優占すれば森林が維持される可能性もあるが,草地化する可能性もある. 地点の被食圧は,隣接地域であっても下刈りしたスギ植林地や草地で高く,次は落葉樹混交二次林であり,下層植生が密生したスギ植林地や照葉樹林では被食圧が低かった.この結果から植生管理によってシカ食害を制御できる可能性が明らかになった.スギ植林地では下層植生の刈り取りを行わず,可能であれば常緑広葉樹林に誘導し伐採を避けるほか,林道を減らし路傍の草本植生をなくす,などの対策が有効であり,草地を森林に回復させるには段階的に被食圧の低い植生に誘導すればよい.ただし非常に被食圧が高い西部林道地域では捕獲やフェンス設置などが必要である可能性がある.
|