研究概要 |
ハイマツの年枝伸長生長と気温との関係を明らかにするため,富山県立山山地において,標高の異なる四つの調査地を設定し,各ハイマツ群落においてハイマツ当年枝の伸長様式を調べた。昨年度に比べ今年度は夏の気温や日射量が低かったが,当年枝の伸長生長量の低下は顕著ではなかった。当年枝の伸長様式はロジスティック曲線により精度よく回帰された。一夏の伸長量は,標高の異なる集団間だけでなく,集団内においても個体(主幹)毎に大きく異なっていた。雪融け時期に大きな影響を受ける伸長開始時期の違いが一夏の伸長量に影響を与えていたが,この要因だけでは個体間の伸長量の違いを十分には説明できなかった。今後は個体のサイズ効果を考慮して調査・解析する必要がある。ロジスティック回帰により求めたパラメータを用いて,伸長量と有効積算温度との関係を解析したところ,いずれの集団においても伸長開始後200℃・日で約80%の伸長量に達することが分かった。 四つうち三つの調査地において,リターフォール量の調査を実施した。調査期間中におけるリターフォール量の調査地間の違いは,標高差に伴う有効積算温度の要因だけでは説明できず,各群落における年枝伸長量の違いを反映していた。また,当年の伸長量だけでなく,四年前の伸長量とリターフォール量との間に比較的高い相関が見られ,これらは葉の寿命と対応している可能性が考えられた。また,ハイマツの年枝伸長量は群落の生産量を指標していることが示唆された。今後は更に調査地を増やして,リターフォール量と年枝伸長量との正の相関関係を確かめる必要がある。
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