研究概要 |
ハイマツの年枝伸長生長と気象要因・立地環境との関係を明らかにし,地球温暖化の影響指標を確立する目的で,富山県立山山地の森林限界以上の高山帯に,標高の異なる四つの永久調査地を設置し,一夏の伸長生長フェノロジーを80本の標識した個体(主幹)を対象に継続調査した。枝先に取付けてある温度ロガーを用いて消雪日を推定したところ,2010年においては5月21日~6月30日であったのに対し,2011年においては5月14日~7月1日であり,平均では1日早かったものの,標準偏差は3日多くなり,バラツキが大きかったことが分かった。ある時間における伸長生長量をロジスティック曲線で回帰し,その回帰式から伸長開始時期(全伸長量の2.5%と定義)を求め,消雪日との関係を解析したところ,有意な正の相関が得られた。また,消雪日と伸長生長期間との間には有意な負の関係が見られた。すなわち,消雪が遅い立地に生育していた個体ほど,伸長開始時期が遅く,伸長生長期間が短い傾向が確認できた。しかしながら,消雪日と最終的な伸長量との関係を見ると,両者には負の関係が認められるものの,有意性は必ずしも高くなかった。消雪日が特定できた二年間のデータを用いて,その年の伸長成長量を目的変数に,消雪日と夏の気温を説明変数に用いて,個体の変量効果を組み込んだ一般化線形混合モデルを用いて解析を行ったところ,消雪日は負に,夏の気温(前年)は正に,伸長生長量に影響を及ぼしていることが磯認できたが,夏季気温の変数の方がより大きな影響を及ぼしていることが分かり,消雪日の変動による影響はそれに比べて小さいことが分かった。また,これらの調査地を含む五つのハイマツ群落において,リターフォール量を調べたところ,伸長生長量が多い群落(枝の周辺)ではリターフォール量が多いこと,そして土壌水分量が多い群落ではリターフォール量が少ないことが分かった。さらに,ハイマツ針葉の分解速度が0.10~0.17y^<-1>であることが明らかになった。
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