ハイマツの年枝伸長生長と気象要因・立地環境との関係を明らかにし,地球温暖化の影響指標を確立する目的で,富山県立山山地の森林限界以上の高山帯に,標高の異なる4つの永久調査地を設置し,一夏の伸長生長フェノロジーを80本の標識した個体(主幹)を対象に継続調査した。 枝先に取付けてある温度ロガーを用い,2013年の消雪日を推定したところ,5月14日~7月7日(平均:6月7日)となり,2013年度は最も消雪日が早かった。 ある時間における伸長生長量をロジスティック曲線で回帰し,その回帰式から伸長開始日(全伸長量の10%と定義)を求め,消雪日との関係を解析したところ,有意な正の相関が得られた。同様に,消雪日と伸長終了日(全伸長量の90%と定義)との間にも有意な正の関係が見られたが,傾きは低く,伸長終了日に及ぼす消雪日の影響はより小さくなっていた。当年枝の伸長生長について,有効積算温度を用いて過去4年間のデータを解析したところ,伸長を開始してから停止に至る積算温度は,個体間あるいは年間でバラツキが大きいことを確認した。一方,伸長終了日の日付を整理したところ,個体間や年間でのバラツキが小さく,7月25日前後で伸長が約90%終了することが分かった。これらの結果は,ハイマツの当年枝伸長生長が日長による影響を受けていることを示唆するものである。 これらの調査地を含む5つのハイマツ群落において,リターフォール量を調べたところ,伸長生長量が多い群落(枝の周辺)ではリターフォール量が多いこと,そして土壌水分量が多い群落ではリターフォール量が少ないこと,針葉リターフォール量は針葉の寿命を加味した過去の気温と関係があること等が明らかとなった。 以上のことから,消雪から始まる生育期間の中で,ハイマツの生長に及ぼす気象要因の影響が明らかとなり,気候変動が本種の生長に及ぼす影響の予測精度を増すことができた。
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