マッコウクジラのワカオスの社会構造を把握するため、2010年8月から9月にかけて、北海道羅臼町を基地に、根室海峡に来遊するマッコウクジラの調査を行った。ウオッチング船を用いて個体識別用の写真撮影を行うと同時に、赤外線距離計により個体までの距離を計測して個体のサイズ推定を行った。調査中には適宜水中マイクを用いて鳴音録音を行った。また、これらの海上調査と平行して、羅臼灯台の高台よりセオドライトを用いて、マッコウクジラの分布と移動を把握する調査も行った。今年度の調査で識別された個体は計40個体で、これらのうち過去5年間に識別されていたものは26個体であり、再発見率は65%と高い値となった。これまでの調査で来遊する個体の半数以上が識別されたと考えられる。距離データより約30個体の体長推定値を得た。これらのうち7個体について、エコロケーションクリックスのパルス間隔から得られた推定体長と比較したところ、きわめて良い相関が得られた。これらのデータから同伴とサイズの関係を検討する。セオドライトによる分布調査からは、根室海峡内でマッコウクジラは明瞭な日周水平移動をすることが明らかとなった。このような日周パターンは他の海域では知られておらず、非常に特異的なものである。
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