根室海峡に来遊するマッコウクジラのワカオスの社会構造を把握するため、2011年8月から9月にかけて、北海道羅臼町を基地に調査を行った。ウオッチング船を用いて個体識別用の写真撮影を行うと同時に、赤外線距離計により個体までの距離を計測して個体のサイズ推定を行った。調査中には適宜水中マイクを用いて鳴音録音を行った。また、これらの海上調査と平行して、羅臼灯台よりセオドライトを用いて、マッコウクジラの分布と移動を把握する調査も行った。今年度の調査で識別された個体は計46個体で、このうち昨年以前に識別された再発見個体は30頭、再発見率は65.5%であった。過去6年間のデータを用いて社会分析を行ったところ、同伴指数はメスの群れに比べて非常に低く、並べ替え検定の結果個体の選好性はないと判断された。ただし30日以上の間隔をもって同伴が再確認された長期的な付き合いを持つ集団が3集団見いだされた。この集団はワカオスの集団についてこれまで言われてきたような同サイズの個体の集まりではなく、異なる大きさの個体が含まれていた。標準化遅延同伴率へのモデル当てはめの結果、約1.5年続く集団同士が、7日程度同伴する2段階の短期的同伴関係が見いだされた。根室海峡のワカオスの社会構造には、永続的なユニット同士が短期間同伴する太平洋のメスと未成熟集団と同様に階層性があり、それが高い捕食圧によるものであることが示唆された。
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