好蟻性(アリと共生する)のシジミチョウ幼虫がアリの存在を認識しているのか、またアリの種を識別できるのかを解明するために、ミヤマシジミチョウを用いて異なる条件下で飼育を行いチョウ幼虫と蛹にみられるさまざまな好蟻性器官の数や形状を比較し、また、それぞれから有機溶媒を用いて体表物資の抽出を行った。 それらの結果、アリ不在環境で飼育したチョウ(アリ不在飼育)とアリと共に飼育したチョウ(アリ存在飼育)では幼虫・蛹とも好蟻性器官のうち樹状刺毛の数および長さがアリ存在飼育個体はアリ不在飼育個体より多くかつ伸長する傾向がみられた。この樹状刺毛は、体表面の一部(気門周囲、腹部蜜腺周囲など)に存在する特徴的構造の刺毛で物理的感覚器官であると考えられていることから、アリを認識するメカニズムに関与している可能性が示唆される。また、アリ存在飼育については、クロオオアリ・クロヤマアリ(共生関係が強い)、エゾクシケアリ(共生関係が弱い)、カラフトクロオオアリ(共生関係がない)など数種のアリを用いた比較実験を行った。その結果、アリ種によってチョウ幼虫や蝸に対する反応が異なるものの、どのアリ種もミヤマシジミの幼虫および蛹を襲うことはなくチョウは羽化することができたことから、ミヤマシジミ幼虫はアリ種を識別して、アリの行動をコントロールしている可能性も考えられる。 平成22年度は樹状刺毛に様々な処理をした幼虫と蛹で飼育実験を行い、樹状刺毛の機能をより詳細に解明するとともに、21年度に抽出した物質の化学分析等を進めてチョウ幼虫がアリの種を認識しているのかを解明していく計画である。
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