好蟻性(アリと共生する)のシジミチョウ幼虫がアリの存在を認識しているのか、またアリの種を識別できるのかを解明するために、今年度は異なるアリ随伴条件下でミヤマシジミ幼虫の飼育を行い、2009年度の結果においてアリ感知器官と推察した樹状刺毛の数や長さを比較した。また、飼育実験と平行して2009年度に抽出した体表物質をチョウ蛹と同サイズに作成したガラスビーズにさまざまな濃度で塗布し、ガラスビーズに対するアリの行動を観察する実験も行ったほか、幼虫および蛹の各好蟻性器官に処理を行い、非処理個体と処理済み個体に対する数種のアリの反応行動を観察する実験も行った。さらに、羽化直前の蛹をバイアル瓶に活性炭吸着剤と一緒に入れ、羽化時に出る可能性が考えられる揮発性物質の捕集、そして蛹殻、羽化成虫をそれぞれ有機溶媒にいれて体表物資の抽出なども行った。 飼育実験により、チョウ幼虫の樹状刺毛の長さや数は脱皮前にアリが随伴すると伸長し増数する結果がえられた。このことはチョウ幼虫がアリ随伴経験を基に体構成を変化させているものと推察される。つまり、チョウ幼虫はアリの存在を積極的に認識しているのであろう。また、アリの随伴を経験すると樹状刺毛を伸長し増数させることから、樹状刺毛はアリの感知器官だけではなく、アリの随伴を安定化させる機能も所持している可能性が推察される。蛹の体表物質の抽出物をガラスビーズに塗布した実験および好蟻性器官に処理を行った未成熟個体の実験については、アリの行動を録画したビデオを現在解析中である。また、羽化時に出ると思われる揮発性物質や蛹殻などからの抽出物質については、現在分析のために保存冷凍中である。
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