本研究課題はわが国の亜寒帯林(北方針葉樹林と亜高山帯針葉樹林)における撹乱体制と樹種共存メカニズムを解明するために,各森林タイプの主要な優占樹種の動態と更新環境との関連性についての,定量的把握を目的として実施した.大面積長期動態モニタリング手法を用いた林冠撹乱体制に関連した森林維持メカニズムと環境変化に伴う森林の応答予測に関する研究は,今後の地球環境変動に対する森林保全的課題への重要なアプローチとなる.24年度には前年までに引き続き,北海道東大雪北方針葉樹原生林を対象に,すでに設置された1ha調査区内の5m×5mグリッド441交点において全天写真を撮影し、下層への光透過率の等値線図の作成を行い,各個体の成長と関連させた解析を主要な出現樹種ごとに行った.当該年度に調査を実施した北方針葉樹原生林分での光透過率の平均値は12%前後であった(一方,亜高山帯針葉樹林では7~11%であった).御岳や東大雪では最近5年間における林冠木の全胸高断面積合計や稚樹の出現本数の変化は動的平衡状態にあった(北八ヶ岳では幹密度が増加傾向).24年度までに完了した毎木調査の結果とメッシュ光データから局所重み付け回帰平滑化の手法を用いて各樹種の個体水平位置での樹幹への光透過率を推定し,それらの成長速度との関係をモデルにしたところ,亜高山帯針葉樹林と北方針葉樹林の主要樹種では,光に対する反応パターンが明確に異なることが明らかとなった.以上のように,本研究の最終的な目的である樹種共存メカニズムの相違を解明するために,本研究課題で開発した個体光環境の把握手法が極めて有効であることが明らかとなり,さらに類似した針葉樹林における主要樹種の反応パターンの違いを定量的に説明するアプローチが確立できたことが重要な成果であると考えられる.
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