宮城県沿岸のキタムラサキウニの優占する不毛な岩礁(磯焼け場)において、大型褐藻のアラメの群落が局所的に維持される特異な暗礁(K1)と、その周辺で規模・形状は類似するが、アラメが生育しない3つの暗礁(K2:ウニ侵入なし;B1:ウニ侵入有り;B2:ウニが多いが、ホンダワラ類が生育)を対象として、昨年度までに取得した各暗礁上で約1ヶ月間の流速データとその沖側深所(参照点)での1.5年間の水圧データを再解析した。流速データには砕波に伴う気泡等によりノイズが多く、解析の障害になったため、ノイズを自動的に除去、補正する手法を開発した。それにより各暗礁上での適正な有義波動流速(以下、波動流速という)を求め、参照点での波高、波周期および潮位から高い精度で推定できる経験モデルを再構築して、暗礁上での長期間の波動流速の発生確率分布を推定した。その結果、ウニが侵入せず、アラメ場の維持を可能にする流動条件(波動流速がウニの侵入限界0.4m/s以下となる確率<0.21)が示されたが、同時に流動がK1より強いK2ではアラメの加入が強い流動によって阻害されている可能性が示唆された。また、巻貝類の摂食を排除したケージ実験のデータを解析した結果、予想に反して、微小藻類等の増殖速度が、アラメ群落が維持されるKlよりも他の暗礁の方が大きくなることがわかった。このことは、K1において、ウニの侵入可能な低い流動条件がしばしば発生するにもかかわらずウニがほとんど侵入しないのは、微小藻類による影響ではなく、K1に特異的に形成される殻状海藻イソイワタケのマットが流動中でのウニの移動を妨げているためと推察された。 東日本大震災後の研究地区を追跡調査し、ウニ密度が約1/7に低下したこと、水深が約1m深くなって流速が低下したこと、およびアラメ幼体がK2を含む広範囲に加入したことを確認し、アラメの生育可能な流動条件に下限だけでなく、上限も存在するという予想が支持された。
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