研究概要 |
本研究では、Mg-キラターゼの細胞内シグナル伝達に果たす役割の解明を目的とした。Mg-キラターゼはクロロフィル合成の第1段階であるプロトポルフィリンIXへのMgの配位を触媒する酵素である。Mg-キラターゼはCHLI,CHLD,CHLHの3つのサブユニットから構成される。植物において、核コードの光合成遺伝子は葉緑体の機能状態とリンクしていることが知られている。しかし葉緑体機能が失われても、核コードの葉緑体遺伝子の発現が抑制されないgun(genomu uncoupled)変異休が見出され、その原因遺伝子の多くがCHLHのミスセンス変異であることが明らかとなってきた。従って、Mg-キラターゼはクロロフィル合成系の酵素としてだけでなく、葉緑体から核への情報伝達(レトログレードシグナル)にも関与することが明らかとなってきた。これまでの研究から、Mg-キラターゼの生成物である、Mg-プロトポルフィリンIXがシグナルとして機能しているとの報告が成されたが、最近の我々の研究により、その可能性は否定されている。 本年度は、以下の研究課題に取り組んだ。 1.Mg-キラターゼの活性調節 (i)in vitro Mg-キラターゼ活性再構成系 gun変異がMg-キラターゼ活性に与える影響を調べるため、Mg-キラターゼ活性の再構成系の構築を試みた。既に作成しているMg-キラターゼサブユニットの組換えタンパク質による再構成を試みたが、活性は得られなかった。そこでエンドウ葉緑体のサブフラクションとシロイヌナズナ組換えタンパク質とを組み合わせることで、再構成を行なった。エンドウの可溶性画分とシロイヌナズナのCHLH,GUN4タンパク質を組み合わせることにより、活性を得ることに成功した。 (ii)チオレドキシンによるレドックス制御の生理的意義 確立したMg-キラターゼのアッセイ系を用いて、チオレドキシンによるレドックス制御について検討した。その結果、Mg-キラターゼ活性そのもにはチオレドキシンにより直接的な制御を受けないことが明らかになった。一方、活性はDTTに依存性を示すことから、チオレドキシンの標的とならないサブユニットの還元が、Mg-キラターゼの活性化に必要であることが明らかとなった。 (iii)CHLHの翻訳後制御 in vivoでの翻訳後制御機構を明らかにするため、前駆体であるALAを添加し、内在のプロトポルフィリンIX量を高めたシロイヌナズナにおけるCHLHタンパク質の蓄積について検討した。
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