葉緑体光合成電子伝達系において、鉄硫黄クラスターはフェレドキシンや光化学系などに含まれる重要なコアファクターである。この鉄硫黄クラスターの組み込みは葉緑体内で起こるが、その分子メカニズムには不明の点が多く残されている。Hcf101 (high chlorophyll fluorescence 101)蛋白質は、葉緑体のストロマ側に局在している可溶性蛋白質で、同じくストロマ側に局在する2Fe-2Sクラスターの足場蛋白質CnfUから、光化学系1複合体へ4Fe-4Sクラスターを供給する経路の中間で働くのではないかと考えられている。Hcf101蛋白質は、鉄硫黄クラスターのリガンドとなる可能性のある保存されたCysを含むN末端、C末端ドメインと、中央のp-loop NTPaseドメインを持っている。野生型Hcf101蛋白質を発現した大腸菌細胞は鉄硫黄クラスターに特徴的な茶褐色を示すことが知られている。今年度の研究ではHcf101の鉄硫黄クラスターの保持様式と生理機能との関連を明らかにするために、大腸菌内での組み換え発現システム、またシロイヌナズナhcf101ノックアウト株に変異型Hcf101を発現させたトランスジェニック植物を用いた部位特異的変異導入解析を進めた。得られた結果は、いくつかの保存されたCys残基は大腸菌内で発現させた場合、鉄硫黄クラスター保持に関わっている事が分かったが、植物体in vivoでの機能においては、必ずしも必須でない事を示している。この事は、これら単一の変異体においては、おそらく複数ある他のリガンドでその機能が代替されうる可能性を示している。またCys残基以外でもin vivoでの機能にとっては必要不可欠な残基が確認ざれた。Hcf101の鉄硫黄クラスター形成とどう関わっているのか、興味が持たれる。
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