葉緑体チラコイド膜プラストキノン酸化制御の分子メカニズムを明らかにするために、ホウレンソウ生葉より単離した葉緑体を用いて、光合成電子伝達反応に与えるO2の効果を検証した。O2存在下での光照射と比べて、チッソ置換した状況下での光照射は、葉緑体光合成速度(HCO3依存の酸素発生速度)を約40%へ低下させた。そこで、我々は、O2に依存した光合成電子伝達反応(Mehler-Ascorbate peorixdiase(MAP)-pathway)が機能し、光合成を駆動しているという仮説を検証した。O2存在下での光照射は、チラコイド膜光合成電子伝達系の酸化還元レベルを示すクロロフィル蛍光パラメーターqLの増大、また光合成電子伝達体タンパク質シトクロムfの酸化、さらに、チラコイド膜光化学系I複合体(PSI)の酸化を伴った。つまり、O2は、光合成電子伝達系の酸化をもたらした。これと同時に、チラコイド膜プロトン勾配形成を示すクロロフィル蛍光クエンチングNon-photochemical quenching(NPQ)の誘導がO2により促進された。これらの結果は、MAP-pathwayが、O2存在下機能し、カルビン回路を駆動させるためのATP供給に貢献していることを示す。そして、MAP pathwayは、O2に依存した電子伝達反応により、プラストキノンを酸化し、葉緑体電子伝達反応での電子蓄積を緩和していること考えられる。MAP-pathwayの活性は、光合成が抑制される、つまりカルビン回路の活性が低下する条件下、増大し、プラストキノンの酸化を促進する。このメカニズムは、光合成生物が、大気中に20%も豊富に存在するO2を有効に利用するシステムとして考えられ、酸素発生型生物が進化の過程で獲得してきたものと判断する。
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