植物の根端に存在する「根冠」は、分裂組織の形成や保護、根の重力感受などを担う重要な組織である。シロイヌナズナの根冠は細胞系譜の異なる2種類の幹細胞が協調的に分裂・分化することで形成され、その後急速な成熟を経て数日で剥離する速いターンオーバーを繰り返している。研究代表者は、独自のアクティベーションタギング法により、根冠細胞の形成と分化に異常を示すシロイヌナズナ変異体urp7-Dを単離した。この変異体ではNACドメイン型転写因子SOMBRERO (SMB)が根全体で異所的に発現していた。レポーター遺伝子を用いた解析の結果、野生型植物においては、SMBは分化した根冠のみで特定的に発現することがわかった。urp7-Dにおいては、根冠の幹細胞が失われると同時に、表皮に根冠様の性質が付与されていた。反対にSMBの機能欠損変異体(smb-3)では根冠の幹細胞活性が亢進し、根冠の剥離が遅れていた。これらの結果は、SMBが根冠の分化と成熟を制御する調節因子であることを示している。SMBの下流で細胞分化や成熟に機能する遺伝子を同定するため、SMBの誘導型過剰発現体(iSMB-ox)の根を用いて、誘導前と誘導後の転写プロファイルをマイクロアレイによって比較した。並行して野生型の根とsmb-3の転写プロファイルも比較した。SMBは転写活性化因子であると考えられるので、iSMB-oxで発現が上昇し、かつsmb-3において野生型よりも発現が低下している遺伝子を探索した。さらにBirnbaumらの根組織別発現プロファイルデータをもとに、根冠で優先的に発現している遺伝子に絞り込み、22個の候補遺伝子を得た。
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