本研究では、植物の微小管構造の形成・維持に関与する新たな因子の同定と、分子メカニズムの解明を目指している。我々は、シロイヌナズナの変異体の解析によりMAPキナーゼフォスファターゼ様PHS1を単離しており、C792S不活性型PHS1が強力な間期表層微小管の不安定化を引き起こす事を明らかにしている。そこで、この遺伝子を利用し以下3項目を行う事にした。 1)不活性型PHS1を用いて、間期表層微小管の形成・維持に関わる因子の同定 2)表層微小管を積極的に不安定にする因子の探索 3)PHS1に関連のあるMAPキナーゼカスケードの同定 これまでPHS1をMAPキナーゼフォスファターゼ様タンパク質として扱ってきた。ところが前年度、PHS1のN末端側保存領域のみで表層微小管を消失する活性を有する事が発見された。この保存領域は、粘菌のAFKキナーゼに非常に弱い相同性を示し、Mnイオン依存的キナーゼ活性をしめした。さらに、N末端側の微小管を消失する活性が、実はC末端側のフォスファターゼドメインによって抑制されている事も示した。つまり、PHS1はキナーゼと、フォスファターゼの両方の活性を有しており、その両ドメインによって表層微小管の存在・消失がコントロールされているという可能性が示された。当該年度では、このキナーゼドメインが自分自身とαチューブリンを直接リン酸化することを示した。さらにそのリン酸化部位がほぼ同定され、現在確認中である。また、実際の植物においてPHS1を介したリン酸化が、塩ストレスなどに誘導されることが示された。これは、PHS1によるチューブリンリン酸化による微小管の安定性の調節メカニズムが、未だ未知のストレス応答系に組み込まれている事を示唆し、この発見の意義は大きい。
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