高温で登熟したイネ種子は貯蔵デンプンの質的・量的な変質が起こり、背白などの白化米が生じる。一方、OsCEO1が欠損し、全白種子が生じるflo2変異体では、デンプン生合成系遺伝子群や貯蔵タンパク質遺伝子などの種子貯蔵物質生合成に関わる多くの遺伝子の発現が大きく低下するなど、高温登熟種子の形態と共通点が多いため、flo2変異体は高温登熟障害イネのモデル系となる。flo2変異体ではATP合成酵素遺伝子の発現量が大きく低下したが、高温障害によりATP合成酵素遺伝子の発現量が低下するかどうかを調べ、高温障害と未熟種子に含まれるATP含量との関係を明らかにした。ATP含量がflo2変異体や高温登熟種子の登熟過程でどのように変化しているかを継時的に解析したところ、強い高温障害が生じた日本晴、台中65号の未熟種子では明らかなATP含量の低下が認められた。一方、高温障害が起こりにくい品種である金南風では、高温ストレスを与えた場合でも通常栽培と同等の量のATP含量が検出され、あまり変化が生じないことがわかった。一方、flo2変異体では通常条件で登熟した場合でも野生型に比べてATP含量の減少が認められた。また、金南風に由来するflo2変異体に高温ストレスを与えた場合にも、顕著なATP含量の減少が認められ、通常栽培よりも13%の収量減となった。このことから、flo2変異体でも高温ストレスにより高温障害が起こることがわかった。親系統の金南風では、ほとんど高温障害が起こらないことから、OsCEO1の機能が欠損することで高温障害が増悪化することがわかった。これらの結果から、flo2変異体および高温障害イネで生じた白化米の発生に未熟種子に含まれるATP含量の減少が強く連鎖していることが示唆された。
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