イネの胚乳変異体であるflo2変異体は、種子貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質生合成に関わる複数の遺伝子の発現量が顕著に低下し、乳白で小粒の胚乳を生じる。このことからこの変異の原因遺伝子は貯蔵物質生合成に関わる制御因子をコードしていることが示唆されている。マップベースクローニングにより、この変異の原因遺伝子を単離した。その結果、この変異体ではTPRモチーフを有する新規なタンパク質をコードしている遺伝子に点変異が生じていることがわかった。この野生型の遺伝子をflo2変異体に導入したところ、得られた形質転換体の種子は野生型の表現型を示した。これらの形質転換体は、flo2変異体で発現量が減少していた貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質の生合成に関わる遺伝子の発現量が回復していた。また、貯蔵デンプンの構造も野生型と同等になった。このことから、この遺伝子(FLO2)がflo2変異の原因遺伝子であることがわかった。FLO2遺伝子は緑葉および未熟種子で強く発現をしていた。また、この遺伝子の発現量は登熟の進行とともに増加した。FLO2と相互作用する因子を探索したところ、bHLHタンパク質とLEAタンパク質が検出された。FL02はこれらの因子と協調的に種子貯蔵物質生合成系遺伝子群の発現を制御しており、種子の大きさや品質に関わる重要な因子であることが示唆された。FLO2遺伝子の過剰発現形質転換体では貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質の生合成に関わる遺伝子の発現量が野生型よりも高くなっていた。また、生じた種子サイズや種子重量は野生型よりも有意に大きかった。このことからFLO2は種子貯蔵物質生合成系遺伝子群の発現を制御している上位の制御因子であり、この過剰発現により貯蔵物質の生合成に関わる遺伝子群の発現量が増加し、その結果として種子の大型化が起こったものと考えられた。
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