研究概要 |
軟骨魚類(サメ・エイ・ギンザメ)は体内に尿素をため込むことで、体内の浸透圧を海水と同じレベルに保つ。その結果、海という高浸透圧環境でも脱水から免れ適応できる。この尿素による体液調節のしくみを明らかにするため、ゲノム情報が利用可能なゾウギンザメをモデルとして確立し、本年度は特に腎臓における尿素再吸収機構の解明を進めた。ゾウギンザメの腎臓からスプライシングバリアントを含む5種類の尿素輸送体をクローニングすることに成功し、抗体を作製して腎ネフロンでの分布を調べたところ、UT-1は我々がドチザメで得た輸送体の同じ分布を示し、UT-2と-3は異なるネフロン分節に存在したことから、尿素再吸収のメカニズムがこれまで考えられてきたものよりも複雑であることがわかった。NKCC1,NKCC2,NCC,CFTRをはじめとする膜輸送タンパク質のクローニングも済ませており、今後腎ネフロンでの分布を調べることにより、尿素再吸収に関わる駆動力の解明が進むと考えている。 体内尿素濃度は、合成と排出のバランスであるため、尿素合成についても研究を進めた。尿素サイクルの律速酵素であるCPSIIIを指標として調べたところ、ドチザメではこれまで考えられてきた肝臓以外に筋肉の寄与が大きく、環境浸透圧の変化に伴いCPSIII遺伝子の発現量が筋肉で大きく変化するのに対し、肝臓では一定であることがわかった。ゾウギンザメでもCPSIII mRNAの配列を決定しており、今後発現部位の解析を進める。個体発生の過程でいつから尿素を利用する体液調節を獲得するのかについても研究を開始した。ゾウギンザメの受精卵を確保し、孵化まで飼育しながら間隔をおいてサンプリングを行っている。今後CPS遺伝子の発現を、発生段階を追って解析する。
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