軟骨魚類は体内に尿素をため込むことで、体内の浸透圧を海水と同じレベルに保つ。今年度は、ゾウギンザメの尿素合成系の解明を進めた。グルタミン合成酵素、CPSIII、アルギナーゼなどの主要な尿素サイクル酵素群をクローニングにより同定した。これらの酵素活性も測定した。その結果、ゾウギンザメでも肝臓が主要な尿素産生部位であり、環境塩分濃度の変化に応答して尿素合成活動を変化させた。筋肉でもCPS活性は見られたが、mRNA量はドチザメと比べて少なく、体内尿素量への寄与は低いと考えられた。その他、腎臓などでも尿素サイクル酵素群のmRNA発現と活性が見られた。これは、腎臓で再吸収したアンモニアを尿素の変換し、尿素保持に重要な現象だと考えられる。肝臓での尿素合成は卵殻内で発生中の胚から見られたが、現在発生段階を追ったサンプリングを行っており、今後詳細な解析を行う。 本年度は、腎機能をはじめとする様々な機能の調節に関わる神経葉ホルモン(ゾウギンザメではバソトシンとオキシトシン)の受容体の解析も進めた。4種類の受容体様遺伝子を同定し、COS細胞での機能解析により、そのうちのひとつはこれまでに未同定のバソトシン受容体であることを発見した。同タイプの受容体をメダカなどの真骨魚類からも発見したが、四肢動物では見つけることができず、魚類特異的な受容体であり、四肢動物の腎尿細管で働くV2受容体の原型である可能性を見出した。ゾウギンザメの受容体は四肢動物と比べてリガンド選択性も異なり、機能的・進化的な観点から新たな概念を示すものであった。今後、ホルモンの機能を詳細に調べていく予定である。
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