研究概要 |
軟骨魚類は体内に尿素をため込むことで、体内の浸透圧を海水と同じレベルに保つ。今年度は、以下の3つの内容について研究を進め、成果を得た。 1.ゲノム情報を活用した膜輸送タンパク質の同定と発現解析:腎臓での尿素再吸収の駆動力を生みだすNaCl輸送分子(NKA,NKCC2,NCC)、水チャネル(AQP3)を同定し、ネフロン上の分布を明らかにした。その結果、まず原尿からNaClを再吸収して浸透圧を下げることで水の再吸収を促進し、さらにNaClを再吸収することで尿素を濃縮し、最終分節での尿素再吸収を可能にすることがわかった。腎臓は硫酸イオンをはじめとする二価イオンの排出にも重要で、Slc26a1とSlc26a6という分子が硫酸イオンを特異的に輸送すること、尿素再吸収とは異なりネフロンの第2ループで硫酸イオンの排出を行うことがわかった。 2.初期発生における体液調節機構:発生の初期、すなわち肝臓や腎臓などの器官が未発達の時期にはどのように環境適応を行うのだろうか?発生の初期から尿素を利用する体液調節を行っていることを確認し、卵黄を包む卵黄嚢上皮が体液調節の場であることを発見した。発生の進行とともに肝臓や腎臓に体液調節の場は移行する。 3.脳下垂体神経葉ホルモン受容体の解析:腎機能をはじめとする様々な機能の調節に関わる神経葉ホルモン(ゾウギンザメではバソトシンとオキシトシン)の受容体解析:昨年度、ゾウギンザメから新規受容体の存在を発見したが、他の魚類や四肢動物にも存在することを見出した。ただし、哺乳類では偽遺伝子化していた。リガンド選択性、培養系での機能解析、分子系統解析、シンテニー解析から、脊椎動物での神経葉ホルモン系の進化について新たな説を提唱した。
|