研究概要 |
イトマキヒトデの生殖巣刺激物質(gonad-stimulating substance,GSS)を無脊椎動物のゴナドトロピン(生殖腺刺激ホルモン)として世界で初めて同定したことで、本研究では、ヒトデをモデルに卵の最終成熟制御機構を解明することを目的として、具体的に3年間に渡りGSSの合成・分泌・作用機構ついて研究をおこなった。 研究最終年度の成果として、これまでのイトマキヒトデに加え、ヤツデヒトデとオニヒトデからGSS分子の同定を行った。系統解析の結果、これらヒトデのGSSはリラキシン-3の延長上にクラスターを形成することが明らかになった。また、オニヒトデのGSSはイトマキヒトデと高い相同性を示した。 分泌機構として、放射神経をイオノマイシンと処理することでGSSが分泌されることが確認され、GSSの分泌に細胞内カルシウムが関与していることが強く示唆された。 一方、GSSのA鎖およびB鎖に対するポリクローナル抗体はGSS分子を認識できなかった。このことは、A鎖・B鎖間にジスルフィド結合を形成することで、GSS分子は抗体では認識できない独特な立体構造を形成し、この二量体構造が受容体との結合に重要であることが考えられる。 また、GSSの標的細胞である卵濾胞細胞に対する作用機構として、卵黄形成期の卵濾胞細胞ではGSSによる1-MeAde生産が見られないことが分かった。これについて受容体/G-protein/アデニル酸シクラーゼを解析したところ、卵黄形成期の濾胞細胞には、繁殖期と同様に卵成熟期同様にGSS受容体やアデニル酸シクラーゼ活性は確認されたが、促進系G-protein(Gs)のαサブユニットが検出できなかった。このことから、卵黄形成期の濾胞細胞では、シグナル情報伝達系としてGsαが欠如していて、このためGSSによる1-MeAde生産がおこらなかったと考えられる。
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