我々は、発生期の腺下垂体において、細胞の最終分化に同期して細胞接着因子カドヘリンの型の変化cadherin switchingが起こることを明らかとし、従来から主張されている液性調節に加えて、cadherin switchingがホルモン産生細胞の最終分化に深く関わっているという仮説を立てている。本研究課題は、cadherin switchingが腺下垂体細胞に与える細胞学的影響を明らかとし、細胞発生・分化に果たす役割を解明ことを目的としている。また、成体下垂体における組織特異的幹細胞の存在について、カドヘリン発現様式を手掛かりに探究することをもうひとつの目的としている。 E-、N-両カドヘリン陽性細胞は、成体腺下垂体においても少数が集団をなして存在している。本年度は、主に成体ラットの下垂体組織を用いて組織学的な検討を行った。これらの細胞は、ほとんどがS100タンパク(下垂体前葉における濾胞星状細胞のマーカー)陽性であることがわかった。E-、N-カドヘリン陽性細胞は、中葉においては、MSH産生細胞の大きな集団の間に介在していた。この細胞群を電子顕微鏡で観察したところ、ラトケの遺残腔に面したマージナル細胞と似た未熟な形態を示す細胞が多数を占めたが、これに交じって、分泌顆粒をもつ細胞が点在していた。S100タンパクプロモータ下にGFPを発現するトランスジェニックラットを用いて、各種ホルモンに対する免疫組織化学を行ったところ、GFPを発現し、かつ、POMC陽性となる細胞、その他、LH、prolactin、GH、TSH陽性となる細胞が確認された。すなわち、これらの細胞は、成体に残存した未分化細胞、あるいは組織特異的幹細胞の性質をもった細胞である可能性が考えられる。
|