我々は、腺下垂体の発生において、細胞の最終分化に同期して細胞接着因子カドヘリンの型の変化cadherin switchingが起こることを明らかとし、従来から主張されている液性調節に加えて、cadherin switchingがホルモン産生細胞の最終分化に深く関わっているという仮説を立てている。本研究課題は、cadherin switchingが腺下垂体細胞に与える細胞学的影響を明らかとし、細胞発生・分化に果たす役割を解明することを目的としている。また、成体下垂体における組織特異的幹細胞の存在について、カドヘリン発現様式を手掛かりに探究することをもうひとつの目的としている。 前年度までの研究により、分化した細胞は、cadherin switchingを起こすことで未分化細胞の集団から離されること、その結果として、未分化な細胞の集団が維持されることがわかった。本年度は、この差次的細胞接着のもつ意味を主に検討した。カドヘリンは、細胞内へ接着情報を伝達する機能があるとされるが、マイクロアレイ解析の結果、この系に有意な変動は、認められなかった。細胞接着がもたらす別系統の情報伝達として、Notchシグナリングがある。胎児期の腺下垂体原基細胞では、一様にNotchシグナリングが働いていることが知られている。成体でもカドヘリンによって維持される未分化細胞の集団にNotchシグナルが働いているか否かを検証したところ、前葉、中葉のE-カドヘリン陽性細胞特異的にNotch及びそのligandの発現を認めた。さらに、これらの細胞では、Notchシグナルの下流転写産物であるHes1の発現がみられること、Notchシグナルの阻害剤DAPTによってHes1の発現が消失することを確認した。また、.初代培養において、Notchシグナルの阻害は、cyclinの抑制を通して細胞の増殖活性を著しく減少させることがわかった。すなわち、cadherin switchingによる未分化細胞/分化細胞の細胞選別が、未分化細胞間のNotchとリガンドの結合を担保することによって、細胞の分化を調節していることが考えられる。
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