研究概要 |
当該年度の最も顕著な成果は,ウシ胸腺由来ヒストンH2B,H3,H4の抗大腸菌活性とその作用メカニズムを明らかにした点である。我々は過去にヒストンH2Bもシュレーゲルアオガエル皮膚より抗菌タンパク質として得ていることから,研究実施計画の一部としてヒストンの研究も組み込んでいた。本研究では,各ヒストンタンパク質が生物種を越えて保存的なアミノ酸配列を保持していることに基づき,抗菌活性やその作用メカニズムが不明であったArg-rich型であるピストンH3とヒストンH4に着目し,検証した。その結果,ヒストンH3,H4のいずれも大腸菌に対して抗菌活性を有すること,次いでLys-rich型であるヒストンH2Bは大腸菌に対しその細胞膜を透過して菌の核酸に結合することで抗菌性を示す一方,ヒストンH3,H4のいずれも大腸菌細胞膜を破壊することで抗菌性を発揮することを,共焦点レーザー顕微鏡ならびに走査型電子顕微鏡を用いて明らかにした。さらに,これらヒストンの抗菌作用時における挙動には,大腸菌外膜に存在するプロテアーゼT(OmpT)によるヒストンの断片化が関わっていることも明らかにした。ヒストンはクロマチン構造を形成するために必須のタンパク質であるが,近年,細胞外にも存在し,生体防御機構に積極的に関与しているほか,細胞毒性を有することや敗血症の原因因子になることなどが報じられており,世界的に注目が増している。本年度の成果は生体防御機構の一員としてのヒストンの機能を解明するうえで,重要な発見となった。その他,両生類皮膚由来抗菌ペプチド似ついて,皮膚以外の器官での遺伝子発現の検出や抗菌以外の活性(マスト細胞脱顆粒作用,抗腫瘍細胞作用)の検出を行ったほか,ニワトリの培養細胞を用いた抗菌ペプチド遺伝子の発現促進物質の探索などを行い,抗菌ペプチドの多機能性を検証するうえで,重要な成果を得た。
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