我々ヒトを含む多くの動物において、行動パターンには雌雄差が見られる。行動パターンにおける性差を生み出す基盤は、脳の神経回路網にあると考えられる。脳の構造上の性差は発生過程においてどのように形成され、そしてどのように機能しているのかに関しては、多くが謎のまま残されている。本研究では、ショウジョウバエ成虫脳の化学感覚中枢神経回路網に注目し、性決定因子による性差形成機構を明らかに、その機能を解明することを目的とする。 ショウジョウバエ〓節の味覚感覚系における性差を解剖学的・形態学的に調査した。まず、味覚感覚ニューロンで発現するpoxn遺伝子を利用しGFPを発現させ、その中枢神経系での投射を雌雄で比較した。すると、雌では正中線を越えないのに、雄では正中線を越える投射があることがわかった。そこで、この雄特異的な投射パターンを示すニューロンの同定を試みた。味覚感覚ニューロンは化学感覚毛の根元に4つあり、そのうち2つのニューロンでfruitless(fru)遺伝子が発現していることを確認した。前肢〓節第3節に注目し、fru発現味覚ニューロンをGFPでラベルし、体細胞モザイク法により、個々のニューロンの中枢投射パターンを調査した。その結果、特定の化学感覚毛に存在する味覚感覚ニューロンが、雄特異的な中枢投射パターンを示すことが明らかになった。次に、性決定因子Fruの性的二型投射パターン形成に果たす役割を調査した。fru突然変異体では、雄得的な投射パターンが形成されなかった。一方、Fruの強制発現では雌のパターンを雄化することはできなかった。このことから、味覚ニューロンの投射パターンの性差形成にFru以外の因子の関与が示唆された。
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