研究概要 |
本研究は、アオハダトンボの視覚コミュニケーションが成虫期間で変化する現象をモデルとして、末梢の情報受容システムである複眼の長期的適応現象の過程を明らかにし、適応的な行動と情報処理システムの関連を明示するものである。 アオハダトンボ成虫の複眼の成熟に伴う変化に伴った体色及び行動の変化を観察した.アオハダトンボ雄では,未成熟個体および成熟個体の翅脈に多層膜構造が存在し、その構造によって特徴的な構造色を発色し,雌の翅脈には多層膜構造が存在してない.未成熟個体の翅脈の多層膜構造は,成熟個体に比べて各層がところどころ途切れているような部分が観察され構造的に未発達といえるが,理論的には構造色を発色するだけの構造が完成しているといえる.それにも関わらず,未成熟個体の翅の発色が雌のそれに似ており,縄張り雄からの攻撃を回避できる.これは,翅膜内に成熟過程に伴ってメラニンが蓄積され、翅脈の構造色の発色が翅の裏側からの透過光によってコントラストが消失されることによって,結果的に雌のように視覚上認知されていることが強く想像された. アオハダトンボの個眼の微細構造の観察では,成熟個体が未成熟個体に比べて視細胞のサイズが大きく細胞内小器官の密度が高いことがわかり,成熟に伴う視細胞内視覚情報処理の変化があることが推定される.また,雌雄共に遠距離の餌に反応していることを行動学的に明らかにした.また高速液体クロマトグラフィーにより視物質発色団の同定を行ったところ,成熟・未成熟個体の雌雄全部にレチナール(A1)と3-ヒドロキシレチナール(A3)が検出され,定量的測定をした結果,成熟個体に含まれるA3の総量が,未成熟個体のそれに比べておよそ2倍の増加が観察された.
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