本年度は、広島大学で使用していた電気生理学の機器を、すべて東京大学海洋研究所に移し、ウナギの脳の電気的活動を記録する装置を組み上げた。海水ウナギの飲水行動は、血中で生じたAngiotensin II(ANG II)によって促進され、心房からのAtrial natriuretic peptide(ANP)によって抑えられる。これらのホルモンの脳内受容部位を同定することが本年度の主要目標であるが、ウナギから摘出した直後の脳は、全体が興奮しており、ペプチドを作用させてもその効果が判別しづらい。しかしクモ膜を剥離し、4℃で一晩置くと、ニューロン発火は規則的になり、ホルモンに対してきれいに反応する。この標本にANG IIを作用させると、視索前野と最後野のニューロンは興奮した。特に最後野の第4脳室から脊髄の中心管に移行する部位では、ANG IIによって最初強く興奮させられるが、この興奮は数十秒しか持続せず、その後強い抑制が数分間続くことを見つけた。この反応パターンは、ウナギの血中にANG IIを注射したときに見られる飲水パターンと良く似ており、最後野のニューロンが飲水行動の調節に係っている可能性を示唆している。またこの最後野のニューロンは解剖学的にも判り易い位置にあるので、次年度以降はこのニューロンに的を絞ってANG IIとANPの相互作用を調べる。 本年度は海洋研究所の移転と重なり、また竹井教授から「海水ウナギの腸におけるGuanylinの作用の解明」を依頼されたので、本研究課題のエフォートは30%程度に低下した。しかし依頼された課題はあと数例の実験で3編の論文として纏るし、新キャンパスへの移転も終了し、装置のセットアップもほぼ完了したので、次年度からは本研究課題に集中できる。
|