本研究の目的は、昆虫の空間行動の神経機構について、行動遂行中の非拘束動物から中枢ニューロン活動を記録することにより、網羅的かつ体系的に調べることである。実施課題は大きく分けて以下の2つからなる。1)代表者がこれまでに開発してきた行動-神経活動計測システムに、可動な複数の電極からなるユニットを新規追加し、完全実用版に仕上げる。2)この新たな実験システムを昆虫(主としてコオロギ)の空間行動に適用し、微小な脳であるがゆえに可能な行動-中枢ニューロン連関の網羅的調査をおこなう。初年度は、新システムを構成するサブシステムの設計、試作、実用試験を中心におこなった。以下にその詳細を記す。 【可動多点電極ユニット】圧電素子を利用した超小型リニアアクチュエータの先端部にワイヤ電極を取付けた可動電極ユニットを試作し、実際の動物(コオロギ)への適用試験をおこなった。可動電極ユニットは最終的に自由歩行する昆虫に搭載予定であるが、現段階ではトレッドミル上を拘束歩行するコオロギに対して単極または2極の電極ユニットを適用中である。これまでに毎実験あたり数個程度の前大脳ニューロンのスパイク活動について、長時間(1時間以上)安定して記録できる性能を達成した。 【行動-神経活動計測システムへの組込み】可動電極ユニットと並んで重要なサブシステムである多極アクティブスリップリングについて、設計および製作を完了した。本年度の当初目標としては、多極アクティブスリップリングと可動多点電極ユニットを既存の行動-神経活動計測システムへ組込み、実用試験の開始をめざしていたが、これらについては次年度課題として残された。今後、昆虫搭載型の可動多点電極ユニットの完成を待って早急に取組み、来年度前半を目途に完全実用化を達成したい。
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