平成23年度は、これまで開発してきたシステムの問題点を改善するとともに、空間行動-中枢ニューロン連関について調査を継続することを目標として実施された。 【システム改良の取組み】昨年度までに2チャンネルの可動電極ユニットの搭載・実用化に成功し、今年度は更なる多チャンネル化を目指した。しかし電極装着作業に相当な時間を要すること、および3本以上の電極刺入は脳へのダメージが大きいことから、従来の2チャンネル型が最も効率的にデータを得る事ができるとの判断に至った。また電極をリニアアクチュエータで前進させる過程で記録できるニューロンの数は、1チャンネル当たり最大で3個に留まり、実験効率については改善の余地が残された。単一ニューロンの記録時間については、電極装着法の工夫により最長で約6時間が可能となり、大幅に改善された。 【行動と関連したニューロン活動】これまでに得られた結果をもとに、昆虫の記憶や学習との関連が示されているキノコ体、および体移動の発現と維持に関わる中心体を含む前大脳を主な目標領域として電極を刺入し、実験アリーナ内を自由歩行するコオロギからニューロン活動と空間行動のパラメータ(位置および体軸方向)を同時記録した。約40個のニューロンについて解析した結果、新たに活動頻度が歩行速度と極めて高い相関をもつスパイクユニットが見つかった。また歩行と関連する複数ユニット間で発火タイミングの相互相関を調べたところ、静止時と歩行時で相関様式が大きく変化する現象を発見した。これらのニューロンはいずれもキノコ体柄部に刺入した電極から記録されたことから、少なくともこの領域が空間行動の基本である歩行と密接に関わることが改めて示された。
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