神経系の起原ともいえる消化管神経系の構造と機能を比較生理学的に明らかにする目的で、様々な無脊椎動物の動物門から代表的な実験動物を選び、その消化管について研究を進めた。棘皮動物トラフナマコおよびマナマコにおいて消化管神経系の分布を調べるとともに、その機能解析を行った。グリオキシル酸蛍光組織化学によって消化管上位(食道、下行性小腸上位)に限定してモノアミン作動性の細胞体や神経繊維からなる神経叢が分布していることを明らかにした。免疫細胞化学染色ではドーパミン免疫陽性の細胞体と神経繊維が検出された。ナマコ類の消化管には自発的な周期的収縮が見られ、これはテトロドトキシン(TTX)で影響を受けなかった。ドーパミン、ノルアドレナリンの投与は、モノアミン作動性神経叢が分布する消化管上位だけでなく、分布しない下位でも収縮を惹起した。アセチルコリン投与による収縮はTTX存在下でも起きた。一方、ドーパミン投与による収縮はTTXで阻害された。以上より、(1)消化管筋肉は筋原性リズムによる自発活動をもつ、(2)モノアミンはプロセスの分布領域に限定されない液性作用を及ぼす、(3)ドーパミンによる収縮はコリン作動性の運動ニューロンを介して惹起されていると考えられた。神経原性の消化管運動をもつ軟体動物アメフラシ、モノアラガイにおいてはニューロン活動に起原する蠕動運動の生成機構の相違点に注目して解析した。また、アメフラシの消化管運動に関わる中枢神経系としてこれまで解析が進んでいた口球神経節とは別に腹部神経節内の2カ所に消化管に軸索を延ばすニューロン細胞体群を発見した。そのあるものは免疫組織化学的に抗セロトニン免疫陽性反応を示した。これらの成果は、個々の動物で未解明であった事柄を明らかにしたという意義とともに、系統進化的に消化管神経系の機能を捉える本研究を推進する上で重要な基盤となる。
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