H23年度もMAニューロン細胞体にpNEX-DNAを導入した。このニューロンは口球神経節内の様々なニューロンにシナプス結合をしており、光刺激によりこれらニューロンでシナプス応答が期待できた。培養液SL15(塩組成を海水に近付けたL15培養液)中で神経節を暗条件下で3日間培養し、外液を人工海水に戻した後、神経節内の様々なニューロンに電極を刺入した。 1)MAからのシナプス入力で抑制性応答が予想されるニューロンでも、MAの細胞体が壊れると光刺激で興奮性応答が出やすい事が昨年わかった。細胞体が欠落した場合、MAの軸索末端部のみが刺激されて脱分極し、活動電位が発現せずに電気的カプリングのみが観察されている可能性がある。そこで、今年度は光照射用にビーム径の小さな(約10μm)レーザー刺激装置を作成し、細胞体と軸索に分けて局所刺激を行った。同一のシナプス後ニューロンに対してMAの細胞体と軸索へ局所光刺激を行うと、後者に比べて前者で明らかに抑制性応答が出やすく、予想された仮説が強く示唆された。 2)神経節全体に数十秒の長い光刺激を行うと、その間、MAおよび他のニューロンにリズミカルな活動が誘発されることも昨年わかった。このような応答はMAに刺入した微小電極からの通電で長時間MAを発火させても普段はおこらない。そこでこの応答が、ChR2の細胞全体にわたる脱分極効果によっている可能性もあり、1)と同様に刺激部位を変えて実験を行った。この場合、細胞体、軸索の局所光刺激でいずれの場合もニューロンにリズミカルな応答が誘発され、MAニューロンが潜在的にリズミカルな応答を形成する能力があることが示唆された。 以上の結果、ChR2実験では光刺激の部位によりシナプス後ニューロンの応答に差が見られる可能性が高く、最近の脊椎動物での広範な使用にあたり十分な注意が必要であることがわかった。
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