研究概要 |
1 タロイモショウジョウバエ(Colocasiomyia)属cristata種群の分子系統解析のために,内群15種26個体のDNA塩基配列を分析し,近隣接合系統樹・最節約系統樹・最尤系統樹を基に合意系統ネットワークを構築した.その結果,先行研究の形態分岐系統樹よりも解像度の高いトポロジーを得ることができ,3つの主なクレードが認められた.さらに宿主選択と共宿主性の進化過程は,従来考えられていたよりも複雑であることが明らかになった. 2 マレーシア・サバ州(ボルネオ島)におけるタロイモショウジョウバエ属のハエとサトイモ科植物の送粉共生関係について,次の諸点を明らかにした:(1)この地域はタロイモショウジョウバエ属の種多様性が世界で最も高く,17新種を含む合計21種が,サトイモ科植物15種の花から採集された;(2)これらのうち,最も多くの種数(12新種)を含むbaechlii種群の寄主植物との対応関係は複雑で,共生関係は多対多の関係にある;(3)1つの花を訪れていたタロイモショウジョウバエ集団の種組成とその相対頻度を比較すると,異なる寄主植物間,季節間,地域間で有意に変異し,こうした複数の要因に関する生態的地位の部分的な分離が複合して,baechlii種群の高い種多様性が維持されていると考えられる. 3 サトイモ科ホウライショウ亜科(Mosteroideae)を寄主植物とする新種群(gigantea種群)に,中国雲南省からさらに1新種が付け加わった.本種群に属す4種の内2種については,その繁殖生態の一部を明らかにした.特に,2~3週間あるいはそれ以上に及ぶ長い卵期(他のColocasiomyiaを含むショウジョウバエでは通常1日)は特異的であり,胚発生を終えた1齢幼虫が何らかの要因で孵化を待っていると考えられる.
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