既存の試料に、本年度に新たに採集した試料を加え、63種のマメ科植物の未熟種子内の構造について、比較解剖を行った。その結果、マメ科植物では、(1)他の種子植物同様、胚柄が子葉分化と共に早期に消失するもの(ネムノキ亜科、ジャケツイバラ亜科の大部分)、および、(2)子葉分化後も残り、胚嚢内での胚の固定および栄養分の種皮側から胚への移動の経路として働くもの(ソラマメ亜科の大部分)、以上2型があることが明らかとなった。なお、これまで、「種子植物では、種子内で胚が発達する際に、子葉分化開始と共に胚柄が消失し始めるのが一般的」と言われていた。このため、(2)の型がマメ科の多くの種で認められたことは意外であった。現在、これら結果に関し論文を作成中である。本研究では、胚嚢内での胚の栄養摂取体制転換期における、胚襄内構造多様性の実態解明を目的とし、その中でも特に子葉紋の挙動に注目している。この子葉紋については、これまで、(ア)胚の胚嚢壁への接着部で、胚を固定する役割、(イ)子葉への栄養分の取り入れ口、などの推定がある。この役割は上で述べた、胚嚢内での胚柄の役割に一致する。つまり、子葉紋は胚柄と役割を相補うことが考えられる。今後、胚柄の挙動と子葉紋の挙動とを並行して観察することで、栄養摂取体制転換期の胚の挙動の実態が明らかとなることが予想される。なお、本研究に付随し、胚へ達する栄養分の移動経路としての種柄の構造の実態解明を行い、論文を発表した。また、他のマメ科植物と顕著に異なる胚柄を持つソラマメ属植物について、系統関係を明らかにし、論文として発表した。
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