研究概要 |
本研究の最終年度として、補完試料の収集、補完実験の実施、論文の投稿を行った。投稿原稿については学術雑誌上への掲載のための修正を継続中である。 本研究では、最終的に66種(3亜科、21連、49属)のマメ科植物および比較のため同科の姉妹群ヒメハギ科の1種、計67種の種子内構造について、その発達を追いながら比較解剖を行った。その結果、マメ科植物では(1)胚柄が子葉分化と共に早期に消失するもの(大部分のネムノキ亜科、マメ亜科のソラマメ連)、(2)子葉分化後も残り、胚嚢内での胚の固定および栄養分の種皮側から胚への移動の経路として働くもの(他の大部分のマメ亜科)、以上2型があることが明らかとなった。そして、既存の分子系統樹上でのこれら形質状態の最適化により、(2)型が祖先型であり、(1)型が派生型であることを推定した。なお、ソラマメ連に認められる(1)型では、胚柄消失後、胚は子葉の一部で内乳と接着し、ここを通じて栄養分を種皮側から得ることが推定された。つまり、胚柄消失後はこれに替わる機構が現れ、本来胚柄が持つ(a)種皮側から胚への栄養分の移動経路、(b)胚の胚嚢内での固定、の機能を果たすことが考えられた。また,(2)型では、胚柄の表皮細胞が根毛状に伸び内乳組織に入り込む、胚柄の細胞が基部側で膨らむ、他種に比べ顕著に長い胚柄を持つ、など多様な特徴を示す種があることを発見した。これらの特徴は属レベルでの分類形質として有効であると推定された。 被子植物の胚柄は、一般的に子葉分化後は計画的細胞死により分解してゆくと言われており、胚発達後期の胚柄の実態は限られた種での報告しかない。これに対し、本研究により、マメ科において、胚発達後期の胚柄の挙動、形態、内部構造が多様であり、それらが高次の分類群の識別形質として有効であることが明らかとなり、同科の多様化を考える上で新たな形質を発見できたものと考えられる。
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