研究課題
従来の六脚類(広義の昆虫類)の高次系統は、最近、多方面からのチャレンジを受けている。近年の分子進化学的アプローチを含め、議論は定まらず、争点は「内顎類」のステータスとそれを構成する3目の類縁関係、コムシ目の単系統性に関わるものである。本研究は、内顎類の唯一、最重要とされてきた、内顎類構成群の「共有派生形質」である「内顎口」の形成過程を、内顎類全3目、コムシ目の全2亜目、トビムシ目全2亜目を対象に詳細に比較検討することにより、上記の問題に切り込もうとするものである。本研究からもたらされるであろう成果は、昆虫類のベーサルクレードの系統関係に関する議論に大きなインパクトを与えるものであり、昆虫類の高次系統の再構築に繋がるものである。本年度は、カマアシムシ目およびコムシ目の内顎口形成様式を解明すること、トビムシ目の内顎口形成の概略を把握することを目指した。まず、カマアシムシ目の内顎口形成を検討した結果、内顎口後壁は下唇背板由来であり、最近、分子系統学的検討からカマアシムシ目の姉妹群と示唆されるコムシ目におけるプランとはまったく異なる様式で、内顎口が形成されることを明らかにした。コムシ目に関しては、構成する2亜目の内顎口形成を比較した。その結果、トビムシ目、カマアシムシ目ともまったく異なる、両亜目で同様な内顎口形成様式が認められた。側基板も従来の見解と異なり、下唇基節由来であることも明らかになった。以上の結果は、第8回国際無翅昆虫類学セミナー(イタリア)で招待講演として発表された。トビムシ目に関しては、デカトゲトビムシ卵を用いて、その内顎口形成の概略を把握することができた。その結果、従来の理解とはまったく異なって、下唇背板が内顎口の後方域を形成することが明らかになり、この点において、カマアシムシ目と同様の様式で内顎口が形成されることが明らかとなった。現在、さらに確証を得ることを目指し、透過型電子顕微鏡で下唇背板の挙動を検討している。
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