近年生物の絶滅はますます加速していると言われており、現に多くの生物が絶滅に瀕している。自然の豊かさを享受するためにも、また子孫により良い環境を残すためにも、生物多様性の維持と希少生物の保護は極めて重要な課題である。本研究では、絶滅危惧種であるホトケドジョウ類を対象として、"保全"(すなわち希少生物の保護と環境の保全)を実践し、本研究がモデルケースとして、特定の生物種にとどまらず、希少生物全般の保護と環境保全のために役立つことを目指している。ダム建設が予定されている愛知県設楽町周辺にて、開発事業による環境破壊からホトケドジョウ類を保護するため、事前調査・移植・事後アセスメントから成る対策を予定し、その一環として22年度の調査研究を行った。 ホトケドジョウ類の分布域において、昨年度に引き続き生息状況の調査とサンプルの収集を行い、ミトコンドリア調節領域の塩基配列の決定による集団間の系統解析を行った。また、核DNAの塩基配列の決定にも着手し、その結果愛知県東部から静岡県西部に分布するホトケドジョウ類が独特の進化史をもつことを推定することができた。昨年度ダム建設が予定されている設楽町の近隣において、移植に最適であると思われる移植先を見出すことができたので、生態学的調査を継続し、この移植候補地が適していることを確認した。また、この場所のホトケドジョウ類の生息数を見積もるために新たに標識再捕を試みるとともに、新たな移植候補地を探索した。さらに、ダム建設予定地周辺のホトケドジョウ類を採集し、遺伝子汚染を回避しつつ移植を行うために遺伝学的解析を行い、遺伝子汚染を引き起こすことなく移植を行いうることを明らかにした。22年度の調査の成果は、魚類自然史研究会で2回報告した。
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