日本の沿岸に飛び石的に分布する汽水域固有の稀少カニ類について、集団間での遺伝的特徴と生態的特徴の変異を明らかにすることを目的として研究を遂行し、以下の成果を得た。 1 スナガニ科のシオマネキについて、沖縄島と徳島・熊本の集団間での繁殖特性の相違が明らかとなった。即ち、繁殖期は、日本本土では夏季にあるのに対して、沖縄では、夏季と冬季の2期あること、配偶行動様式においては本土では、地上でつがいを形成する表面様式と巣穴内でつがいを形成する巣穴内様式がとられるのに対して、沖縄では、表面様式しかとられないこと、そして性成熟達成サイズが、沖縄では本土に比べて小さいことなどが明らかとなった。沖縄島の集団は、遺伝的にも本土の集団と大きくかけ離れており、かつ遺伝的多様性が極めて低いことが、既知の情報として知られており、沖縄島の集団は、遺伝的にも生態的にも高い固有性を有していることが示された。 2 ムツハアリアケガニ科のアリアケモドキについて、和歌山県の集団と徳島県の集団の間で繁殖期が大きく異なっていることが、年間を通した野外調査より明らかとなった。即ち、和歌山の集団は主に春から夏に繁殖するのに対して、徳島の集団は、冬から春にかけて繁殖するという季節的に正反対の繁殖期をもつことが明らかとなった。さらにこの2つの集団に加え、北海道、岩手、神奈川、高知、佐賀、熊本、奄美大島の集団についての遺伝子解析が行われ、日本の集団が大きく3つのクレード(本州太平洋沿岸、北海道・北九州・有明海・徳島、奄美大島)に分かれることが明らかとなった。
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