日本の沿岸に飛び石的に分布する汽水域固有の稀少カニ類について、集団間での遺伝的特徴と生態的特徴の変異を明らかにすることを目的として研究を遂行し、本年度は以下の成果を得た。 1.スナガニ科のシオマネキについて、昨年度に得られた成果を論文としてまとめ、学会誌に発表した。 2.ムツハアリアケガニ科のアリアケモドキについて、分布南限近くの奄美大島の集団のもっている繁殖特性を、定期的な野外調査から明らかにした。本集団の繁殖期は、徳島県の集団と同じように寒冷期にあり、和歌山県の集団が温暖期に繁殖期をもつのとは対照的な特徴を示すことが明らかとなった。併せて、日本各地の集団の繁殖期を、採集標本から推定し、遺伝的に大きく分かれる3つの地域グループは、それぞれのグループ内で共通した繁殖期の特徴をもっていることが示された。 3.ムツハアリアケガニ科の稀少種クマノエミオスジガニについて、三重県宮川の集団のもっている繁殖特性を、定期的な野外調査から明らかにした。本集団の繁殖期は、もうひとつの分布地である宮崎県熊野江川と同じように、寒冷期にあること、また寿命は1年未満であることが明らかとなった。また三重県と宮崎県の2つの集団間の遺伝的類縁関係をみたところ、2つの集団は遺伝的に互いに独立していることが明らかとなった。
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