研究概要 |
研究実施計画にあげた4項目の内、3項目については、以下のように実績をあげることができた。 残る1項目(交尾器アロメトリー)については、次年度以降の課題としたい。 1.交尾器形態の多様化パターンとその要因:ババヤスデ属とその近縁属を対象に、性的な軍拡競走と配偶者選択が交尾器形態進化に異なる様式で関与していることを示唆する結果を得て、学会発表を行った(田辺・曽田2009,2010)。このような例は報告がなく、新規性の高いものと考えられる。 2.体サイズの多様化パターンとその要因:材料の一つであるアマピコヤスデについて、体サイズと標高(気温)の関係を熊本県八代市の標高55m~650mの16集団について解析し、両変量間には相関がないことを明らかにした(学生と共同)。 3.機械的隔離と集団間形態多様化及び種分化との関係:研究材料の一部であるミドリババヤスデ種複合体について、(1)多発的な種分化が生じていること、(2)体サイズと交尾器サイズが、雌雄間で相関し、かっ緯度経度・標高・雨量・気温と相関なく地理的に変異していることから、それらの進化要因として性選択が考えられること、(3)上記結果を総合検討し、性選択による体・交尾器サイズ多様化が機械的隔離を介して種分化につながっている可能性を示唆する論文を報告した(Sota & Tanabe 2010)。実証例の少ない性選択による種分化に関する報告として意義のあるものである。また、研究材料の一部であるアマピコヤスデ属において、熊本県において、体サイズ小型の広域分布種から、体サイズ大型の種が少なくとも3種独立に分化していることがわかった。調査範囲を拡げると、分化している大型種の種数はさらに増えることが予想され、多発的な種分化が生じている可能性があり、興味深い。
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