研究概要 |
本年度は、染色体の分析と核および葉緑体DNAの解析が行なわれていないスゲ属植物を、日本各地から研究分担者の協力を得て採集した。本年度明らかにした20分類群の染色体および核リボソーム遺伝子ITS、ETS 1f領域の解析結果と、今まで我々が明らかにしているデータを統合して、スゲ属植物の染色体の分化を考察した。染色体数が少ない分類群で、節の分類体系と相関が見られたのは8節であり、その他の分類群はほとんどが2n=60以上であった。分子系統樹から、スゲ属植物は染色体の異数性と倍数性の両方を伴って、染色体数が増加する方向に分化したことが推定された。 また、種内異数性と地理的分布を明らかにするために、連続した種内異数性が見られるヒメスゲを、日本各地の54場所から採集した。本年度は、染色体の観察と、25場所については葉緑体遺伝子trnT-L-F,rpL16,rpS16領域を解析した。その結果、北海道から関東地方東部までは、2n=18が分布し、関東地方から中国地方までは2n=20、四国地方と九州地方には2n=24、2n=26は福岡県の英彦山付近で見られた。分布が北から南に移行するに従い染色体数が異数的に増加していた。また、葉緑体遺伝子の解析から、9種類のハプロタイプに分けられた。これらのハプロタイプは、北海道と本州に分布する2n=18,20でハプロタイプIと、四国と九州に分布する2n=24,26のハプロタイプIIにわけられ、染色体数と相関が見られた。これらの結果から、スゲ属植物は異数性と遺伝的分化を伴って分布域を拡大し、進化したことが推定された。
|