研究概要 |
本年度は、中部地方より採集したヒメスゲの染色体と葉緑体遺伝子の解析を行った。長野県茅野市豊平美濃戸阿弥陀岳より採集したヒメスゲの集団に、2n=20の個体と2n=22の個体が観察された。昨年度まで、北海道から九州地方まで日本各地のヒメスゲの種内異数体を解析し、2n=18, 20, 24, 26の4種類が存在することを明らかにしてきた。しかし、本年度初めて長野県で2n=22の種内異数性が見つかった。2n=20の個体は標高2400m以下に、2n=22の個体は、標高2400mから2750mの高山帯の尾根に分布していた。本研究により、ヒメスゲには2n=18から26までの連続した異数体が存在することが明らかになった。葉緑体遺伝子の解析より、日本に分布するヒメスゲは次の2つのタイプにわかれた。(1)ハプロタイプI:染色体数は2n=18と2n=20で、紀伊半島以東に分布する.(2)ハプロタイプII:染色体数は2n=24と2n=26で、中国、四国、九州地方に分布する. 栃木県と群馬県に広く分布し、西日本に隔離分布するクロヒナスゲの葉緑体遺伝子と核遺伝子の比較も行った。その結果、栃木県、群馬県、岐阜県、三重県および愛媛県の集団の葉緑体遺伝子と核遺伝子は完全に一致したが、鹿児島県の高隈山の集団のみ核遺伝子で11サイト、葉緑体遺伝子で4サイトの塩基置換が見られた。このことから、日本の最も南西に分布する高隈山の集団は遺伝的分化が進んでいることが明らかになった。
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