国内産6種のトウヒPicea属(エゾマツ、アカエゾマツ、ヤツガタケトウヒ、イラモミ、ヒメバラモミ、ハリモミ)の樹上に形成されるカサアブラムシ科虫嬰のうち、唯一未入手だったアカエゾマツ樹上のヒメカサアブラムシの虫嬰を、北海道上川管内で得ることができた。 北海道大学総合博物館・植物標本庫において、所蔵されるトウヒ属のさく葉標本の調査を行い、トウヒ属の標本についている虫嬰の形態や採集地データを得た。 これらの虫嬰形態について、「トウヒ属樹上に形成されるカサアブラムシ虫こぶの植生史研究への応用」として、日本植生史学会(弘前大学)において、ポスター発表を行った。また、論文化作業を行った。その際に、形態の記載に加え、検索表も作成した。 前年に借用した中国産および北アメリカ産の虫嬰について、形態の記載など論文化作業を進めた。 北海道広尾町、群馬県前橋市において、化石の発掘調査を行った。トウヒ属の球果などが見つかったものの、カサアブラムシの虫嬰化石を見つけることができなかった。また、大阪市立自然史博物館に収蔵される三木茂コレクション・粉川昭平コレクションの化石標本の調査も進めたが、トウヒ属と考えられた化石標本は堆積環境により摩耗・崩壊が激しく、現生の状態との比較・同定がたいへん困難であった。 北海道大学で開催された日本甲虫学会・日本鱗翅学会シンポジウム「北方圏の成り立ちと、その昆虫相」において、本研究で扱うトウヒ属などを含む古植生・古環境とも深く関連した当時の昆虫相について、「最終氷期の北海道の甲虫相」と題し、招待講演を行なった。
|