研究概要 |
タンパク質の凝集は医薬品開発の全てのステップで深刻な問題を起こす.例えば,ドラッグデザインに必要な立体構造が決定できなくなり,抗体などの蛋白質製剤が凝集すると患者に投与できなくなる.低分子量のスルホベタイン類(以下SB類と略す)はタンパク質の凝集を防ぐ事からX線結晶解析やNMRで利用されているが,凝集防止メカニズムは不明である.本研究ではSB類がタンパク質の凝集を防止するメカニズムを明らかにする事,応用例を広げる事を目的とした. 1.NDSB類のなかで典型的なNDSB-195について,熱凝集・熱変性に及ぼす効果を調べたところ,蛋白質によっては防止(安定化)するだけでなく促進(不安定化)することもあること,安定化・不安定化は蛋白質の二次構造では予測できない事がわかった. 2.リフォールディングの促進効果が高い事が報告されているNDSB-256は蛋白質によって程度の差こそあれ,熱凝集を強く防止した.しかし,NDSB-256は蛋白質によらず熱変性温度を一定の割合で低下させた.すなわち,蛋白質の凝集と変性とは全く異なる現象であり,それらを別々に制御できる可能性のあることがわかった. 3.抗体は凍結融解によって失活するが,NDSB-195の添加によりほぼ完全に失活が防止できることがわかった.また,凝集しやすく精製しにくい蛋白質は精製過程でNDSBを添加することによって精製の収率が上がるとともに,精製時間を短縮できるなど,効率化に有用であることがわかった.
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