研究概要 |
タンパク質の凝集は医薬品開発の全てのステップで深刻な問題を起こす.例えば,ドラッグデザインに必要な立体構造が決定できなくなる.低分子量のスルホベタイン類(以下SB類と略す)はタンパク質の凝集を防ぐ事からX線結晶解析やNMRで利用されているが,凝集防止メカニズムは不明である.本研究ではSB類がタンパク質の凝集を防止するメカニズムを明らかにするために,タンパク質の構造,特にループ部分の運動性にSB類が及ぼす効果を詳細に解析した.また,グリセロールなどに代表されるオスモライトが安定化する各種のメカニズムをスルホベタインが有するかを解析しオスモライトと比較した. スルホベタインはタンパク質のループ部分を固定することにより,タンパク質分子どうしの絡まりを防止する(凝集を防止する)と予想していたが,NMR測定とタンパク質の限定分解解析により,スルホベタインはむしろループ部分の運動性を高めることがわかった. オスモライトの1つの安定化メカニズムはタンパク質の分子をコンパクトにすることであり,スルホベタインもコンパクトにできるが,スルポベタインのコンパクト効果はオスモライトに比べて小さいことがわかった.一方,ペプチド結合の溶解度を下げる効果はスルホベタインの方が高かった.以上より,スルホベタインのタンパク質安定化効果はオスモライトとは異なることが強く示唆された. スルホベタインのタンパク質安定化メカニズムはオスモライトとは異なることから,スルホベタインの化学構造を変えることによって,より安定化効果の高いスルホベタインがデザインできると期待される.それはタンパク質の立体構造解析や医薬品としての利用を促進すると期待される.
|