植物は独立栄養を営んでおり、土壌や大気から獲得した無機態(無機物質)の栄養を有機化合物にしている。窒素源は植物の成長を制限する重要な栄養素で、学術的にも農業生産にとっても大きな関心がある。 グルタミン合成酵素(GS)はATPを駆動力とし、グルタミン酸(Glu)とアンモニアからグルタミンを合成する。トウモロコシ由来の本酵素は結晶構造が解かれた最初の真核生物のGSであり、同一のサブユニット5つのリング構造が上下に2つ重なった10量体構造をとる。活性中心は同一リングの各モノマー間にあり、2リングの接触領域とは離れている。2リング構造は、相対するモノマーのPhe150及びその周辺残基同士の相互作用で保たれている。変異体F150Gは1リングと2リング構造の分子種が混在し、F150Vは1リング構造のみとなり、ともに基質Gluに対するKmがWTの約50倍に増加した。Phe150近傍の残基を網羅的に選びAla置換体を作製してGluに対するKmを調べたところ、リング間結合部から基質Gluの活性中心への入り口にまたがる領域に、Kmが増大する変異残基が集中した。この領域は活性中心からは遠位であることから、基質親和性が基質の触媒部位へ結合するステップとは別に規定される可能性が考えられた。この遠位領域の変異の構造的影響を調べるために、遠位領域上のG241AとW243Aのそれぞれの結晶化を行いそれぞれの結晶が得られた。各々の結晶をPhoton Factory NW-12ビームラインで回折測定を行ったところ空間群P21で、分解能2.55Å、2.80Åの回折データが得られた。構造解析の結果、置換したアミノ酸の側鎖が限定的に変化したのみであり、活性中心構造そのものには有意な変化はなかった。以上より、基質親和性に関与する構造要因が活性中心とは別にリング相互作用残基付近にも存在するとの作業仮説を立て、更なる構造解析を進めている。
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